2019/02/14

よく考えてみれば、この町はなかなか住み心地がよく快適な環境であり、見ず知らずの他人にもお勧めしたくなるような魅力あふれる郊外の土地なのかもしれない。
理由はさっぱりわからないが、なぜかそんな気持ちがあふれてきてどうにも抑えられなくなった私は、どうにかして我が町を日本一の人気タウンに推薦したいという気持ちを誰かに伝えずにいられなくなった。
こうした場合、同じ町に住む人間どうしで語り合うのももちろん悪くないが、それだけでは町の魅力はただ閉じた輪の中をぐるぐる回るだけで終わってしまう。ここはやはり、この町とは縁もゆかりもない人と夜通し語り合う際などに、さりげなくこの町独自の魅力をアピールしてその人の潜在意識にこの町への招待状を送り届けるのがいいのではないか?
そんな語らいの場を何度か設けた後、実際にその人を車の助手席などに乗せ、この町へとスピーディーに運んでくるのだ。免許がない場合は電車でも構わない。
ただ、素直に招待に応じてくれない場合は、少々手荒な真似をしなければならない可能性もある。数人がかりでその人を地面に押さえつけ、ロープなどで手足の自由を奪ったうえで強引に荷台に乗せてトラックを飛ばす。
そんな犯罪スレスレの行為をしても現実にこの町を目にしたとき、拉致されたことへの怒りなどはその人の心からすっかり消え失せて感謝の気持ちでいっぱいになっているのである。
「私の臆病な心を無視して狭い世界から無理やり引っ張り出してくれてありがとう。何とも快適で魅力をたたえた町だと認めざるを得ないね。私もこの町が日本一の人気タウンになれるよう、及ばずながら協力させてもらうよ」
そんな嘘偽りのない言葉を耳にすることが、私たちの何よりの生き甲斐なのである。