2019/02/15

道路の横の森から誰かが飛び出してきたので、私は心臓が止まりそうになった。
よく見れば近所の鈴木さんだ。
私はどうにか心を落ち着かせながら「森で何をしていたのですか?」と鈴木さんに訊ねた。
すると彼は不思議な形の帽子をかぶり直し、小さく咳をしてから言った。
「この森の奥に、動物図鑑などに載っていない謎の生物が生息しているという噂をご存知ですか?」
額の汗をタオルで拭きながら、そんな驚くべきことを鈴木さんは述べた。
「このあたりでは最近UFOの目撃情報が相次いでいます。だから森の中にいるのは恐らく未知の宇宙生物だと思うんですよね」
それを聞いて私は再び心臓が止まりそうになった。
「私はその、宇宙生物を捕獲して一儲けしようとたくらんでいるのですよ」
そんな告白が続いたので、私は胸を押さえてその場に座り込んだ。
「それで、宇宙生物は発見できたのですか?」
声を振り絞ってようやくそう訊ねると、私は鈴木さんを見上げた。
「だめでした。そのかわり素敵な帽子が落ちていたので、かわりに拾ってきたのです。一獲千金の夢は消えましたが、こんな素敵な帽子にはなかなか出会えるものじゃない。たまには森の中を散歩するのも悪くありません、思いがけない発見がありますからね」
そう答える鈴木さんの声がだんだん聞き取りにくくなったのは、帽子が鈴木さんの頭部をすっぽり包み込んでいたからだ。
帽子はそのままひろがって、今では鈴木さんの肩を飲み込もうとしている。
おかげで最早鈴木さんとは会話が成り立たなくなっており、興味を失った私はその場を立ち去った。
トイレットペーパーを買いに行く途中だったのを思い出したのだ。