2019/02/20

スーパーの野菜売り場を見ていたら、半額のシールを貼られたキャベツが売られていた。
「売れ残ったから半額にしたのだろうか? それならわざわざシールを貼る手間などを掛けず、最初から半額で売れば飛ぶように売れるような気がするのだが」
私は素人考えながら、そんなアイデアが心に浮かぶと同時に口からも発していた。
すると近くで商品の補充をしていた初老の男性がはっとした表情になり、私に近づいてくるとうやうやしく名刺を差し出した。
「私は店長の小林という者です。たった今お客様が述べられたご意見ですが、何か非常に参考になる視点を提供して下さっているような気がします。ぜひ採用を検討したいのですが、許可をいただけないでしょうか? もちろん無償ということはありえません。その結果もたらされた利益の半分をお客様の口座に振り込む、という条件をこちらとしては考えています」
店長という高い地位にある人からのそんな申し出に私は恐縮し、むろんその場で快諾したのだった。
それからひと月ほどでなぜか突然そのスーパーは潰れ、私はアイデア料を受け取れずじまいになっている。
だが一ヶ月の間店内のすべての商品がもれなく半額だったことは、今でも思い出すたびに幸福感に包まれて優しい笑顔になれる思い出として、私の胸に残っているのである。