2019/02/22

人生に必要なものは、まずは何よりも心から打ち解けられる親友の存在だ。
仕事上の失敗や、失恋の痛手、人間関係の悩み、金銭的なトラブルなどなかなか他人に言えないような個人の問題を、余さず打ち明けて受け取ってもらえる親友がいるなら、その人の人生はもはや何も心配のいらない状態にある。なぜなら、あらゆる問題は一人で胸に貯め込むことで事態を悪化させるのだし、誰よりも親身に相談に乗ってくれる存在が、必ず最良のアドバイスを与えて目の前に進むべき道を敷いてくれることになるからだ。
そんな内容の主張を大変聞き取りづらい早口で語っている男が、コンビニのイートインで隣の席に座っていた。
ガラ空きなのにわざわざ隣に座った男を初めは警戒していたのだが、すぐにそんな有益な情報が彼からもたらされていることに気づき、私は必死に聞き耳を立て、メモを取り続けた。
やがてすべての主張が終了したのか、男は沈黙に包まれた。あらためてその姿をよく見ると、目の前のカウンターには何の飲食物も置かれていない。つまり男はただ私に有益な情報をもたらすためだけにその席に座ったのだろう。
ならばこの男こそ、私の親友になるべき人物として神が用意して、タイミングを見計らって派遣してきた無二の存在なのでは? そう思った次の瞬間、男は立ち上がってすべてに興味をなくしたかのような表情で店を出ていってしまった。
その後を追うように、一匹の蠅が飛び回りながら一緒に外へ出ていくのが見えた。
もしかしたらあの蠅が、すでに男の親友だったのかもしれない。