2019/02/10

夕方外を散歩していたら、見知らぬ男性が地上から五メートルほどの空中に浮かんでいた。元は白いジャージのようだが、当然のように夕日に染まってオレンジ色になっている。
私は感心して男性に声をかけてみることにした。
「こんにちは。いったいどうしたら空中に浮いたりできるのですか?」
そう訊ねてみたところ、男性は困ったような顔で言った。
「逆に訊きたいんですけどね、どうしたら浮かずに地面に立っていられるんです?」
私は驚いて自分の足元を見おろした。履き古したスニーカーはぴたりと道路に貼りついて、もちろん一ミリも浮かんではいない。
「どうって、別に何もしてませんよ。自然に立ってるだけです」
すると男性はうなずいてからため息まじりにこう言った。
「私もですよ、別に何もしてないのに自然に浮かぶんです」
実際のところ、彼は両手を羽ばたかせたりなどの努力は一切していないように見受けられた。
我々はしばらく無言で互いを眺めていたような気がする。
やがて私は空腹を覚えたので「そろそろ夕ご飯を食べよう」と思ってその場を去ったが、男性はそのまま同じ場所に浮かんでいたと思う。
どうやら移動することはできないらしい。食事などはどうしているのだろうか?