2019/01/13

しばらく顔を見ないうちに佐藤さんは公園のイチョウの木になっていた。
「でもまあ、立派な木になられて何よりです」
私はそうお世辞を言った。本当のところ、私ならイチョウの木になるなんてまっぴら御免だし、佐藤さんは大して立派な木でもなく、ごく平凡なありふれたイチョウに過ぎなかったのだ。
でも彼は私のお世辞を真に受けたのか、どことなくうれしそうに見えた。本人がうれしいなら私には何も文句を言う筋合いはない。そう思ってそそくさと公園を出ていこうとすると、遠くから見覚えのある顔の男性が歩いてくるのが見えた。
それはなんと、イチョウの木になったはずの佐藤さんだったのである。
私が混乱して公園を振り返ると、夕日で逆光になったイチョウが不気味なシルエットで目の前にそびえ立っていた。
この木が佐藤さんでないなら、私は誰とも知らない赤の他人になれなれしく話しかけていたことになる。
だが、たまには初対面の人と気軽に挨拶を交わしたり、ひとときの交流を持つのはいいことだ。いつも近しい仲間だけで親交を深めていては、世の中は排他的でとても窮屈なものになるのだから。