2019/02/28

昆虫と話ができるという女がいた。
会ってみると、どことなく昆虫に似た顔をしている。これなら昆虫側も親しみを覚え、思わず女に話しかけてくることもあるかもしれない。
そう思わせるくらい、女は昆虫に似ていたのだが、具体的にどの昆虫なのかを指摘しようとして私は言葉に詰まった。
カナブンやカブトムシではないし、カマキリでもハエでもない。それならカメムシか、それともシロアリかと言えばやはりどれも違うのだ。
だったら昆虫に似ているという感想が勘違いなのか? そう思って女の顔をまじまじと眺めたが、私の口からは無意識のうちに「昆虫に似てる……」という言葉が漏れたくらい、やはり見事な昆虫顔なのである。
なんとも不思議で謎に満ちた話だと私は感心してしまった。
女はその間、ずっと身の回りの昆虫たちと話し続けていたので、私が考え事に没頭していても特に不都合はなかった。
昆虫は室内外を問わずあらゆる場所に何かしら存在している。おかげで女はつねに話し相手に事欠かないようで、実に羨ましい話ではないだろうか。