2018/11/28

ようするにこの社会は猿だらけだ。昨日まで私は毛並みのいい猿を一匹飼っていたけど、檻の掃除をしているすきに逃げられてしまった。でも猿は字が読めないから、箪笥の引き出しから預金通帳を盗むつもりで誤って母子手帳を持ち逃げした。もっとも、預金通帳を盗んだところで残高はゼロなので無意味なのだが。
とにかく金がまったくないので、玄関のポストの横にハンドメイドの募金箱を備え付けて急場をしのぐことにした。
材料はアマゾンの段ボールとガムテープ。夕方ふたを開けてみると、さっそく200円の収入があった。銀色に輝く硬貨を二枚握りしめた私は近所のコンビニへとまっしぐらに走った。売り場に並ぶ雑誌のページを手あたり次第コピーしていたらなぜか店員に止められた。
「あのねえ、私は立ち読みというのは好きではないんですよ。家に帰って座って読みたいわけです。立ち呑みとか、立ち食いとか、野良猫やカラスじゃあるまいし見苦しいじゃないですか!」
人間としての矜持について熱弁をふるう私を、海の向こうからやってきた店員は壁の染みを見るような目でみつめた。その染みはまるで人間の中年男性の顔のように見え、しかもじっと凝視し続けていると話しかけてくるように感じられるのだ。